在宅療養を始める際の準備や本人の心構え
Q.質問
がんと診断されました。自宅で生活しながら治療していきたいのですが、可能なのでしょうか?そのための準備や心構えにはどのようなことが必要でしょうか。
A.答え
人にとっての生活の基本となる場が「家(自宅やこれまでのお住まいの施設など)」です。がんと診断されても、「家」を中心に療養することを希望する方が増えています。がんを患った方が、その人らしい生活を維持しながら、身近な場所で過ごすことを希望される場合、それを支える仕組みを知って活用することが大切になります。
最近では、医療技術が日々進歩しており、治療にはいろいろな選択肢が増えています。治療法を選ぶことで、通院で治療しながら、入院せずに自宅で過ごすことが可能な場合もあり、在宅療養を選ばれる方も多くなっています。
また、進行したがんでは治療が長期にわたる場合も多く、自宅での療養が中心になってきています。進行がんは治らない場合もあるため、急速に進行したときの対応や、不安、悩みもざまざまです。これらに対応する仕組みを知っていると、自宅での療養でも安心です。
在宅療養を始めるにあたっての心構えには、2つのポイントがあります。
一つ目は、まわりの人と相談しながら考えるということです。
ご本人と家族やまわりの人が、お互いの希望や願いをきちんと話してよく相談することが大事です。在宅で療養する患者さんと家族に必要な情報は、治療のことから生活のことまで多岐にわたります。仕事のこと、経済的なこと、人間関係、治療や生活の工夫、公的なサービスなど、経験者の体験談も含めた、信頼できる情報を集め、ご本人とまわりの方が同じ情報を共有し、そのうえで思うことを伝え、相談することが大事です。
二つ目は、専門家に相談する仕組みを活用しましょうということです。
病気についてだけでなく、生活や経済的なことなど、不安や心配なことがあれば、医療者、介護・福祉のスタッフなど、まわりの人に相談することができます。誰に相談していいかわからない場合でも、話しやすいまわりの人に聞いてみることで、適切な窓口につながることができることでしょう。行政では、そのような仕組みづくりを進めています。不安や心配などは心にしまわないで、まわりの人に投げかけてみてください。
病院を退院したあとに家で療養する場合には、準備が必要です。手術や治療は大きな専門病院で行うことも多いですが、家に帰ってからは、かかりつけ医に経過をみてもらう場合もあります。かかりつけ医がいない場合は、入院していた病院で相談するとよいでしょう。医療連携室や患者・家族支援室などといった、地域の医師との橋渡しをしてくれる専門の部署が、新たなかかりつけ医を探してくれる場合もありますし、入院していた病院の医師が主治医をつづける場合もあります。
また治癒して退院となった場合でも、経過観察に年数回受診が必要なこともあります。家族やまわりの方と相談して、退院後の医療機関を選ぶことが大事です。地域でがんの医療機関の情報を提供する仕組みも増えています。市役所や区役所などの行政の窓口に相談するのも一つです。
→ 在宅医の探し方
体調や病状によっては、受診のために病院までいくのが大変なときもあります。その場合は、訪問診療をしてくれる医療機関を探すことが必要かもしれません。
→ 在宅医
在宅での療養中には、がんによるさまざまな体調の不良、痛み、治療による副作用、後遺症などに対する看護の問題が出てきます。看護師による手当てが必要になったら、家に来てもらう方法もあります。医療機関から看護師に訪問してもらう場合と、地域の訪問看護ステーションから訪問してもらう場合があります。
また、介護をサポートしてもらうシステムもあります。訪問介護といい、介護員やホームヘルパーなどが自宅を訪問して、入浴、排泄、移動、食事の介助などの「身体介護」や、調理、洗濯、掃除といった「生活援助」を行うサービスです。在宅療養で、介護の必要な方は活用を検討しましょう。
がんは急速に進行する場合もあるため、人生の最後をどのように過ごすかを考えさせられることもあるかと思います。日本では、半世紀前までは家で最期を迎えることが普通でした。その後病院で最期を迎える方が多くなり、2005年には8割の方が病院で亡くなるようになりました。最近では、「家」で最後まで生活することを希望される方が増えてきており、それに伴いサポート体制も充実しつつあります。今は、一人一人が治療中の生活の場を自由に選択できる時代になってきたといえます。
執筆者 | 児玉 龍彦 |
公開日 | 2021年9月27日 |
文書番号 | gw0161 |
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